退職共済年金 退職一時金の返還

退職一時金を返還することは理解できるが、あまりに数倍の返還額が届いたので驚いているという方はたくさんいらっしゃいました。

共済年金には、退職一時金を返還して、退職共済年金として受け取るという制度があります。年金の手続きをするとき、受け取った一時金の何倍もの返還を求められることが起こっています。

まず退職一時金に関する法改正をみていきます。

■昭和31年7月 退職一時金の制定当初

公共企業体職員等共済組合法の制定当初は、組合員期間1年以上20年未満で退職された人には退職年金が支給されなかったため、共済組合に納めた掛金を退職一時金として支給していました。

■昭和36年4月の改正

通算年金通則法の制定に伴い、 昭和36年4月以後は、共済の加入期間が1年以上20年満で退職した人で、他の公的年金と通算して一定期間以上となる場合、60歳から通算退職年金が支給されることとなりました。 これに伴い、通算退職年金支給のための原資よりも多く掛金を納めていた人には、その差額を『退職一時金』として支給することに変更されました。なお、この退職一時金制度は昭和55年1月に廃止されました。

■昭和61年4月の改正

昭和61年4月の年金法の改正により、過去に退職一時金の支給を受けた人であっても、退職一時金の支給を受けていない人と同じ退職共済年金が支給されることとなりました。そこで、退職一時金と年金との重複支給をさけるため、退職一時金を受けた人は、退職一時金に利子相当額を加えて返還することに変更されました。

このような経過で現在退職一時金を返還することになっています。
退職一時金の返還は、年金の受給権が発生した場合に返還義務が発生します。したがって、返還義務が発生する以前に返還通知を出すことはできません。

民法では消滅時効の起算日(請求する権利が生じた日)から、10年間これを行使しないときは消滅すると定めています。退職一時金の返還に係る時効の起算日は、返還請求ができることとなった日であり、それは退職一時金の返還期限の翌日となります。したがって、退職一時金の支給日や年金の受給権発生日ではなく、退職一時金の返還期限から10年を経過しないと消滅時効にはなりません。

多額の「利子分」を返済することになるため、退職一時金の返還をめぐって訴訟がありました。

事件名:債務不存在確認請求事件(本訴)、退職一時金請求事件(反訴)

いわゆる事件名:日本私立学校振興・共済事業団事件

事案概要
私立学校教職員共済組合から退職一時金を受給した者が、共済組合法の改正に伴い退職年金を受給する場合には、右一時金に利子を加えた金額を返還しなければならないとする規定につき、この規定は同一組合員期間についての重複支給の調整方法として定められたものであり、著しく不合理ともいえず、財産権を侵害するものでもないとして、返還請求が認容された事例。

裁判年月日:1998年10月28日

裁判所名:東京地裁

判決理由(一部抜粋)

 本件返還規定の趣旨は、前記のとおりであって、原告の過去における適法・有効な財産の取得を事後的に無効とし、それを返還させるものではないと解するのが相当であり、そうだとすれば、その義務を課することが著しく不合理で立法権の裁量の範囲を逸脱していると認められる場合はともかく、そうでなければ財産権の侵害とはならないというべきである。そして、右義務は、既に述べたとおり、私立学校教職員共済組合における公平・適正な退職共済年金制度の実現という福祉目的のために定められたものであり、著しく不合理ということもできない。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

原告は、利子の支払義務が生ずるのは、約定によりその支払を合意した場合か本来支払うべき債務が存在し、それを遅滞した場合などのみであるのに、本件返還規定が退職一時金の支給を受けた日の属する月の翌月から退職共済年金を受ける権利を有することになった日の属する月までの期間の利子に相当する額を加えて返還しなければならないと定めたのは財産権の侵害に当たると主張する。

 しかしながら、本件返還規定は、前記のとおり、過去の退職一時金の支給を事後的に無効にして、その返還義務が生じていることを前提とするものではなく、同一の組合員期間に関する重複支給の調整のため、受給した退職一時金の額にその予定運用益相当額を加えた金額を基準とすることとしたものであり、本件返還規定における「利子」の文言は、右調整金額の一部が退職一時金の予定運用益相当額であることを分かりやすく表現するために用いられたにすぎないものであると解するのが相当であり、そうであるとすると、原告の主張する元金と利子との一般的関係を前提とする非難は当たらない。

 そして、右利子の利率が年5.5パーセントの複利計算によるものとされていることについては、共済組合における財源の運用予定利率が5.5パーセントの複利であること(私立学校教職員共済組合法昭和60年改正前の私立学校教職員共済組合法25条で準用される国家公務員等共済組合法昭和60年改正前の国家公務員等共済組合法80条1項1号ロ及び3項並びに私立学校教職員共済組合法施行令等の一部を改正する政令(昭和54年12月28日政令第315号)により改正された私立学校共(ママ)済組合法施行令10条の8によれば、組合員であったものが退職年金、通算退職年金等の受給権を取得しなかった場合に、60歳に達したときに支給される脱退一時金には退職した日の属する月の翌月から60歳に達した日の属する月の前月までの期間に応ずる5.5パーセントの複利計算の利子に相当する金額が加算されるものとされていた。)に照らし、不合理なものではない。