児童扶養手当と公的年金

「公的年金を受け取るようになると児童扶養手当はもらえないのですか」「公的年金の方が少ないので、児童扶養手当を受け取りたい」というご相談もあります。

■児童扶養手当とは

父母の離婚・父・母の死亡などによって、父または母と生計を同じくしていない児童について、手当を支給する制度です。

■手当を受けられることができるのは
次の@〜Gのいずれかに該当する、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある(心身に一定の障害のあるときは20歳未満)児童を監護している父又は母、もしくは、父又は母にかわってその児童を養育している方に支給されます。

@ 父母が婚姻(事実婚を含む)を解消した後、父または母と生計を同じくしていない児童
A 父または母が死亡した児童
B 父または母が政令で定める程度の障害状態にある児童
C 父または母の生死が明らかでない児童
D 父または母が裁判所からのDV保護命令を受けた児童 (新規)
E 父または母から1年以上遺棄されている児童
F 父また母が1年以上拘禁されている児童
G 母が婚姻しないで生まれた児童
H 父・母ともに不明である児童(孤児など)

■請求者が次のような場合は手当は支給されません。

@ 日本国内に住所を有しないとき
A 老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができる(全額停止の場合を除く)とき
B 母または父が婚姻した。または婚姻の届出はしなくても、事実上の婚姻関係(内縁関係など)があるとき
C 対象児童を監護(父は生計同一を含む)しなくなった
D 平成15年4月1日時点において離婚などをした母が支給要件に該当してから5年を経過しても請求がなかったとき

■児童扶養手当と公的年金について

老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができる(全額停止の場合を除く)と支給しないとされているので、老齢年金・障害年金・遺族年金等を受けている場合は支給されません。

例えば、老齢厚生年金を受け取る祖父母が孫を扶養するようなケースにおいても、支給されません。
児童手当と比較して低額の年金であっても支給されません。
平成13年に総務省強制評価局長から児童扶養手当における公的年金との併給制限の見直し等(あっせん)が出されています。


総評相第84号
平成13年8月3日
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長 殿

児童扶養手当における公的年金との併給制限の見直し等(あっせん)


当省では、総務省設置法(平成11年法律第91号)第4条第21号に基づき、行政機関等の業務に関する苦情の申出につき必要なあっせんを行っています。
この度、当省に対し、次の申出がありました。

私(67歳)の娘は、数年前に離婚後、2人の孫(12歳と6歳)を連れて私の家に戻ってきて児童扶養手当を受給しながら生活していたが、孫を残して失踪してしまった。

私は、娘が失踪した当時は就職していたので、妻と孫の面倒をみることができた。しかし、現在は退職し、わずかな老齢年金と預貯金だけで生活しており、その預貯金も底をついてきた。そこで、児童扶養手当を受給できないか市に相談したところ、私の場合、老齢年金が支給されているので同手当を受給することはできないと説明された。
県が作成している児童扶養手当関連の資料によれば、私のように扶養親族等が3人の場合、年収が 325万 4,000円未満であれば同手当は全額支給され、 402万 5,000円未満であれば一部支給されることになっている。私の年収は老齢年金の約 170万円だけであり、老齢年金を受給していることを理由に児童扶養手当が支給されないのは納得できない。

再就職できるまでの間、児童扶養手当を受給できれば、2人の孫の面倒をみながら生活することができるので、老齢年金を受給している場合であっても、児童扶養手当が支給されるよう改善してもらいたい。

この申出について、総務大臣が開催する行政苦情救済推進会議において意見を聴取するなどにより検討した結果、下記のとおり、離婚等により父と生計を同じくせず、かつ、母が監護しない場合等において、祖父母が児童を養育することとなった場合の児童扶養手当の老齢基礎年金、老齢厚生年金等(以下「老齢年金等」という。)との併給制限の在り方について見直すことを含め、このような場合における児童の健全な育成を図る観点からの施策の在り方について検討する必要があると考えられますので、御検討ください。

なお、これに対する貴省の検討結果について、平成14年1月末日までにお知らせください。



児童扶養手当法(昭和36年法律第 238号)は、父母の離婚等により父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている。

児童扶養手当は、昭和36年に国民皆年金体制の下で死別母子世帯のために設けられた母子福祉年金の補完的制度として、経済的に困難をかかえて同様な状況にある生別母子世帯のための制度として発足した。

その後、母子福祉年金制度の遺族基礎年金への吸収・廃止が検討される中で、昭和60年の児童扶養手当法の一部改正により、児童扶養手当制度は、母子家庭の生活安定と自立促進を通じて児童の健全育成を図るという福祉制度として明確に位置付けられている。児童扶養手当は、児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において当該児童の母以外の者がその児童を養育するときに、一定の所得制限の下で、その母又はその養育者に対して支給されるが、受給者である母又は養育者が、公的年金を受けることができるときは支給しないこととされている(児童扶養手当法第4条第3項)。
(注)昭和60年改正前の国民年金法に基づく経過的年金である老齢福祉年金のみ、例外的に併給が認められている。

このため、本件のように児童扶養手当を受給していた母が失踪し、母に代わって祖父母が養育者となる場合で、老齢年金等を受給しているときには、年金額の多寡にかかわらず同手当は支給されない。

厚生労働省は、母又は養育者が公的年金を受給している場合に児童扶養手当を支給しないこととしている理由について、次のように説明している。

@所得保障を受給する同一人に給付事由である事故が重複しても稼得能力の喪失等の程度は比例的に加重されるものではない。
A国の予算という限られた財源の効率的かつ有効な使用を図るため、年金給付と手当支給という所得保障の二重給付は認めないこととしている。

しかしながら、児童扶養手当も老齢年金等も所得の保障という性格を有する点で同一であるとしても、同手当は児童を養育する世帯の所得能力の低下又は喪失に対して支給されるのに対し、老齢年金等は加入者の老齢による所得能力の低下又は喪失に対して支給されるもので、支給の趣旨・目的は異なるものである。

母が監護しないことから祖父母が代わって孫を養育するということは、老齢年金等では想定されていなかった事態であり、そのことに伴う生活費の増大には着目することなく、祖父母が老齢年金等の支給を受けていることをもって一律に二重の所得保障になるとして児童扶養手当は支給しないとしておくことは、児童の健全な育成を図るという同手当の趣旨からみて妥当なものといえるかどうか疑問が残るところである。

また、老齢年金等で生活している祖父母が、児童扶養手当支給の対象となる児童を養育することとなり、同手当の支給がなく生活に困窮した場合、現在の制度では、祖父母と別れての養護施設への入所や里親制度の活用といった方法が考えられるが、祖父母が児童を養育したいという意思がある場合において、直ちにこれらの措置に移行させることが、児童の養育における家庭の役割の重要性を踏まえた場合、より妥当なものといえるかどうか疑問である。

したがって、厚生労働省は、母が監護しない児童を祖父母が養育することとなった場合に、生活の実態にかかわらず、老齢年金等が支給されていることのみをもって、児童扶養手当を支給しないとしていることについて見直すことを含め、家庭における児童養育の重要性を踏まえつつ、児童が養育される家庭の生活の安定と自立の促進、児童の心身の健やかな成長という観点から、このような場合の施策の在り方について検討していく必要がある。