事例21 老齢基礎年金の繰り下げと遺族厚生年金

69歳の女性です。70歳になったら、老齢基礎年金を繰り下げてもらおうと思っていました。あと2ヵ月で70歳です。ところが、先月、夫が亡くなりました。夫は老齢基礎年金と老齢厚生年金をもらっていましたが、勤めていた期間が短いため、老齢厚生年金はわずかです。
ところが、遺族厚生年金の権利が発生したら、老齢基礎年金の繰り下げはできないと言われましたが、ほんとうですか。


国民年金法第28条では、老齢基礎年金の繰り下げについて定められていますが、ただし書きがついています。

ただし、その者が65歳に達したときに、他の年金給付(付加年金を除く。以下この項において同じ。)若しくは、被用者年金各法により年金給付(老齢又は退職を支給事由とするものを除く。以下この項において同じ。)の受給権者であったとき、又は、65歳に達した以後に他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付の受給権者となったときは、この限りではない。

つまり、「受給権者となったとき」ということは、受給資格を満たす者と解釈します。たとえ、遺族厚生年金を請求しないとしても、受給資格を満たしているので、繰り下げ請求はできないことになってしまいます。 もともと遺族厚生年金の受給資格がないのなら関係ありませんが、老齢厚生年金を受給していたの夫が死亡した場合は、遺族厚生年金の受給資格が妻に発生しますので、繰り下げ請求できません。
繰り下げ請求できないので、65歳にさかのぼって、老齢基礎年金をもらうことになります。65歳からの年金が、まとめて振り込まれることになります。
夫が死亡する前に繰り下げ請求していれば、繰り下げた老齢基礎年金と遺族厚生年金を両方もらうことができました。
この事例は、繰り下げ請求の落とし穴ともいえるでしょう。

この事例からわかったこと

@遺族厚生年金の受給権が発生した場合、老齢基礎年金の繰り下げ請求はできない。

A老齢基礎年金の繰り下げ請求をしたあとに、遺族厚生年金の受給権が発生した場合、繰り下げした老齢基礎年金と遺族厚生年金は併給できる。


(注)平成17年4月1日より、以下のとおり、法改正されました。
老齢基礎年金の繰り下げについて、他の年金等の受給権が発生した日以後に繰下げの申出を行ったときは、他の年金等の受給権が発生したときに申出があったものとみなす。

この事例では、死亡時から繰下げ支給の老齢基礎年金を受給することができます。