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知っておきたい年金のはなし     第15号 2003年8月1日発行

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こんにちは。
先日、年金のセミナーをしたあとで、こんな質問がありました。
「話はよくわかりました。ところで、私の年金はいったいどのくらいになるのですか」
これは難しい質問です。まだ40代。しかも、資料もまったくないのですから。でも、誰もが一番知りたいことなのでしょう。
お給料は? 年金に加入した期間は? といろいろ聞いてみます。でも、正しい答なんて絶対にでません。出せるはずもありません。
ただ、質問してきた方は、年金が100万なのか、200万なのか、300万なのか、だいたいでもいいので、知りたいのです。
「今の制度が続いて、そして、あなたが今の会社にいて、その賃金水準が続くのなら、どんなにがんばっても200万にはならないでしょう」
それだけで、大変がっかりさせてしまいました。

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第15号の話題は、知っておきたい年金額(その3)
★★★ 住宅手当と年金、どんな関係? ★★★
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ひろみさんは、この秋、結婚します。相手は、同じ会社の人です。同期に入社した人です。
お給料はほとんどかわりません。
ふたりともワンルームの狭い部屋に住んでいましたので、会社の近くに、手ごろなマンションをみつけました。賃貸マンションです。これからどうなるかわからないので、当分、住宅を購入する予定はありません。
そのマンションの契約で、さて、どちらの名前で契約しようかということになりました。
ひろみさんは結婚後も働き続けます。
ひろみさんの会社からは住宅手当がでます。家賃の3分の1です。契約している本人に対してしか支給されないことになっています。いくら自分で家賃を支払っているとしても、たとえば契約者が親になっていれば、住宅手当はでないというきまりになっています。
ひろみさんが契約者であれば、ひろみさんが住宅手当をもらい、ひろみさんの夫が契約者であれば、ひろみさんの夫がもらうということになります。
そこで、ひろみさんは考えました。自分が契約者になって、自分が住宅手当をもらおうと。そのほうが自分の年金が増えるから。ひろみさんは、年金のこと、いろいろ勉強していたのです。

●年金は給料が多いほど増える?
そのとおりです。標準報酬月額が最高限度額以上の人は、それ以上給料がふえても年金は増えません。しかし、「最高限度額なんて関係ないよ」という人は、年金は給料が多ければ多いほど増えるしくみになっています。また、加入していた期間が長ければ長いほど、増えるしくみになっています。

●標準報酬月額とは

標準報酬月額、舌をかみそうな言葉ですね。簡単にいうと、健康保険や厚生年金の保険料を計算したり、厚生年金額を計算するための、「給料の金額」です。
残業代は、月によって違いますね。毎月の総支給額がかわるたびに、社会保険料を変更するのは大変です。そこで、毎年一定の時期に「今年はこの金額でいきましょう」ということを決めます。(原則として、4月、5月、6月に支払われた給料の平均値で決めます)
それが標準報酬月額です。これをもとにして、保険料も決まります。年金の計算をするときも、これを使います。

●対象になるのは基本給だけ?

いいえ、賃金としてもらったもの全部です。家族手当などいろいろな手当も計算に入れます。通勤手当もです。バスや電車の定期代をもらっても、普通は全額使って、手元には残りませんね。でも、定期代も、対象になります。 もちろん、住宅手当もです。

●じゃあ、遠くから通ってきて通勤手当の多い人、年金も増えるの?

これもそのとおり。ただし、年金が増えるけれど、保険料もその分払っていますね。手元には残らない通勤手当にも保険料がかかるので、手取りは少なくなることになります。

●ひろみさんはこう考えました

住宅手当はどちらがもらっても、ひとつの家庭として考えたら、同じ。でも、でも私は自分の年金をできるだけ増やしておきたいと。
これからどうなるかわからない、自分の年金は自分で確保しておこう、働けるときに、自分の年金を増やしておきたい。

●ひろみさん、上司にこんなことをいわれました

「やはり夫にしたほうがいいよ。会社やめたら、住宅手当なくなるよ。あなたがやめる可能性のほうが高いんじゃないの?」
確かに会社をやめたら、それで終わり。でも、辞めることは、どちらにも考えられるではないですか、なぜ、女性がやめるという発想になるのか、ひろみさんは納得できません。

●女性の年金が低いのは

年金をもらっている人の平均額をみてみると、女性の年金額のほうが低いです。女性の年金額が男性の年金額より低いのは、年金の加入期間が男性よりも短い、給料が男性よりも低いからです。昔は結婚退職も当然のようにあったし、出産や育児で仕事をやめるということもありますね。となると、厚生年金の期間が短くなってしまいます。
それに、男女の賃金格差。今でこそ「女である」ということで賃金差をつけるのは許されませんが、やはり、女性の賃金、男性よりも低いですね。

●働いているときだけの問題ではありません

給料が少ないこと、それはそのときだけではなく、ずっとあとまで続きます。このしくみは誰でも同じだけれど、女性にそういう例が多いということです。会社の中での賃金を決めるしくみは同じであっても、役職につかないと賃金が上がらないしくみになっていると、役職につく機会の少ない女性の賃金は、結局、低くなります。 ●ひろみさん、出産のときはプラスになります

ひろみさんは子どもをほしいと思っています。子どもが生まれても仕事は続けたいと思っています。
産前産後の休業中は、健康保険から出産手当金ができます。標準報酬月額の6割です。育児休業中も雇用保険から給付金がでます。これも、原則として、給料が多いほど、増えるわけです。(増えないこともあり)
ただし、休業中、給料が出なければ、もちろん、住宅手当もありません。それを考えると、単純に損得は言えません。
でも、産前産後休暇は女性にしか取れないけれど、育児休業は男性も取れるから、夫が休業してもいいわけですね。

●遺族厚生年金を考えると

ひろみさんが、もし遺族厚生年金をもらうということを考えると、今度は、夫の標準報酬月額が多いほうが、年金は多くなります。
遺族厚生年金も同じしくみ。原則として、給料が多ければ多いほど、増えるしくみなります。この点を考えると、夫の給料が多いほど、プラスになります。
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こうして考えると、住宅手当をどちらがもらうかというひとつのことをめぐって、いろいろな問題が出てきますね。
私は目先の損得で考えてほしくないなあと思います。夫の扶養に入っていたほうがいいと思って、そういう選択してきた女性が、結局少ない年金になってしまっています。もし、これで離婚したくなったら? 離婚をせざるをえないような状況になったら? 年金のためにがまんすることなんて、できませんね。
どんなふうに自分の生活スタイルがかわっても、自分のものは自分で用意する、配偶者にたよらなくてもいい方法を選ぶ、それも大事な選択かもしれません。
ひろみさんが会社をやめてしまったらそれで住宅手当もおしまいですが、やめる可能性は夫にもあるわけです。
ひろみさんのような考え方、選択肢にあっていいと、私は思います。
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