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知っておきたい年金のはなし    第48号 2004年7月1日発行

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つい最近、こんなお電話をいただきました。
「年金を分割される夫の気持ちを考えたことがありますか」
その男性は、離婚時の年金分割に、怒りを持っておられました。
分割されるほうの身になってほしい、どこまで妻が得する制度なのかと、納得できない気持ちをお話しされました。
第3号被保険者として保険料も払っていなかった上、年金を半分もっていかれるのに、矛盾を感じると言われるのです。
離婚の年金分割について、私が相談を受けるのは、ほとんど女性の方からです。
分割される男性の気持ち・・・
今日は、分割される側からお話してみましょう。

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第48号 離婚時の年金分割
★★★ 夫の言い分を聞いてほしい! ★★★
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信夫さんは59歳。もうすぐ、定年退職します。
幸い、友人の会社で再就職することになっています。
再就職先があるのはありがたいことですが、問題なのは、夫婦のこと。妻との折り合いが悪く、妻は、実家に帰っています。
妻はいろいろと言いますが、信夫さんにはよくわかりません。確かに、仕事ばかりで何もかも妻にまかせきりにしていて、いっしょに出かけることもなかったのですが、生活費はちゃんと渡しているし、夫としては「普通」だったと思っています。
大学生の息子に仕送りし、実家に帰っている妻に生活費を送って、信夫さんは実際のところ大変です。
いよいよ自分自身の年金がスタートします。「離婚時の年金分割」が成立したと聞いて、このまま離婚したら、年金の半分を妻に渡すことになるのか、心配になりました。
今は働いているからいいですが、いつまでも、働くわけにはいきません。
貯蓄もありますが、たよりにしていたのは年金です。
その年金、もし離婚したら、半分、なくなってしまうのでしょうか。

●分割できるのは2階だけ(報酬比例部分だけ)

離婚時の年金といっても、夫の年金全部を分割するのではありません。1階にあたる老齢基礎年金は分割の対象になりません。2階の報酬比例部分だけです。

●2階が半分なくなるの?

分割できるのは最大2分の1。これ以上にはならないけれど、話合いによっては、これ以下になることもあります。

●2階すべてが対象になるの?

あくまでも、婚姻期間のみ。
たとえば22歳から働いているけれど、30歳で結婚、60歳で離婚した場合、分割の対象期間は30歳から60歳までの期間です。
●結婚していた期間すべて?

昭和61年4月から、2階建ての年金制度がスタートして、「サラリーマンの妻は国民年金の保険料を支払わなくていいよ」という第3号被保険者のしくみがスタートしました。
その第3号被保険者の期間ばかりではなく、それ以前のサラリーマンの妻の期間も、対象となります。

●妻が自分で保険料を支払っていた期間も?

昭和61年3月まではサラリーマンの妻は、国民年金に入っていいし、入らなくてもいいことになっていました。だから、自分で国民年金の保険料を払っていた人もいますね。
その期間も、婚姻期間であれば、年金分割の対象となります。

●つまり、サラリーマンの妻の期間が対象ということ?

法律では「婚姻期間」となっていて、今後、政令や省令で定められます。施行は3年後ですので、まだ不透明な点はありますが、今の解釈では、「サラリーマンの妻の期間」は年金分割の対象となるということです。今後具体的に定められることもあるので、注意しておきたいところです。

●共働きの期間は?

信夫さんの妻は、数年、アルバイトをしていたことがあり、給料は低かったのですが、厚生年金に加入していた期間がありました。
その期間は分割の対象にならないのでしょうか。
いいえ、なるのです。
給料に差があれば、その差を分割するというしくみ。

●どうも納得できないよ

信夫さんは納得できません。自分で働いて作ってきた年金が、自動的に半分になってしまうのかどうか、心配です。
しかし、これは自動的ではありません。合意が必要。
納得できない信夫さんが合意しなかったら、裁判所での決定となります。
裁判所がどのような基準で決定するのか、それは、まだ、わかりません。
具体的なことは、今後になります。

●2008年からの分割

2007年4月からはこのように離婚時の年金分割ができるようになりますが、2008年4月以降、あらたなしくみがスタートします。2008年4月以降の第3号被保険者期間は、合意や裁判所の決定なしに、離婚時に分割されます。
もちろん、離婚しなければ、分割されませんよ。

●かけこみ離婚すればいい?

信夫さんは考えました。2007年4月以降に成立した離婚が対象になるので、それまでに離婚すれば、分割しなくてもいいのではないかと。
年金のことだけをみると、2007年3月までに「かけこみ離婚」してしまうと、分割しないですむことになります。(財産分与などはまた別問題です)
●夫と妻が逆でもいいのです

信夫さんのような例が多いと思いますが、逆でも同じです。妻がサラリーマンという事例でも、同じことになります。

●分割された年金はいつになったら元妻がもらうの?

妻自身の年金がスタートするときからです。
もし信夫さん夫婦が年金を分割したら、年上の信夫さんが年金をもらいはじめるときからではなく、離婚した妻が年金をもらいはじめるときからです。

●もし妻が再婚したら?

それでも、分割された年金は妻のものです。

●実際に手続きはどうなるの?

今後くわしいことが出されると思いますが、分割が決まれば、社会保険事務所に届け出ることになります。

●分割には期限つき!

離婚後、いつでも、分割の請求ができるわけではありません。
請求は離婚成立から2年間に限るとなっています。

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信夫さんは思います。自分の年金は「既得権」だと。これだけの年金がもらえると思っていたのに、法律の変更で、過去の分にまでさかのぼって、自分の年金が減るのはおかしいと。
「こんな制度はおかしいよ。過去の分まで半分になってしまうなんて!」
そうですよね。別れる妻に渡したくない気持ちはわかります。
たとえば財産分与でまとまったものを妻にわたしても、そのとき限り。
年金は一生つきまといますものね。
扶養されていた妻にとっては歓迎される制度でも、年金が減る側にとっては、歓迎されない制度です。
しかし、妻の言い分は、夫がもらえる年金は妻のおかげ、当然の権利だということですね。
複雑です。一番の問題は年金制度のあり方ではないでしょうか。

なお、このしくみは、自営業者夫婦には関係のないしくみです。

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