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知っておきたい年金のはなし    第58号 2004年10月11日発行

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先週、「日生協ライフビジョンセミナー」(日本生協役職員福祉推進協議会主催)で家計講演をさせていただきました。その日の基調講演は鈴木彰さん。鈴木さんによるライフプラン作成のグループワークもありました。
鈴木彰さんはファイナンシャルプランナーではありません。しかし、ライフプラン作成でお聞きした話は、すばらしい内容でした。今まで聞いたどんなライフプランセミナーよりも、心に残るお話でした。
ライフプランは「どう生きるか」の問題なのですね。
それが語れないと、人の心には残りません。
私は思いました。年金の話も同じ。しくみの解説だけではない、それ以上ものを語れるかどうかだと思います。
さて、今日は、2004年の年金制度改革で、あまり目立たないけれど、変更になった点をお話しましょう。
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第58号 もらうことで損をする?
★★★ その年金、もらいたくない! ★★★
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節子さんは昭和21年5月生まれです。現在、58歳。子育てもちょっと落ち着いた40歳から再就職し、厚生年金に加入しています。
3歳年上の夫は、昭和18年5月生まれ。60歳で定年退職し、今は年金生活です。ボランティア活動で、けっこう楽しそうです。
節子さんも60歳になったら仕事をやめて、自宅でパン教室をしたいと思っています。仕事を辞めるとなると、気になるのが自分の年金。社会保険事務所に問い合わせてみました。
その結果、60歳からは年金が30万円しかありません。61歳になったら、70万円ほどに年金が増えます。65歳になると、さらに増えます。
しかし、会社で20年も働いていたのに、この少ない年金額!
なせ、こんなに少ないのかと聞いてみたら、給料の平均で計算しているので、給料の少ない人は年金も少なくなるということでした。
確かに、今でも、給料は手取りで15万円ぐらいしかありません。もちろん、これでも上がってきたのですが、もともと、低い給料だったのです。
年金は少ないけれどしかたないなあと思っていたら、
「妻が厚生年金に20年以上加入していたら、夫の年金が少なくなるらしいよ」
と、友達から言われました。
調べてみると、夫が62歳になれば約40万円の加給年金が夫の年金にプラスされますが、この約40万円のプラス分がもらえなくなってしまうというのです。
節子さんは、いったいどういうしくみになっているのか、よくわからないし、自分の年金30万円をもらって、夫の年金40万円がもらえなくなるのなら、もらわないほうがいいじゃないかと思いました。
いったい、これはどういうことなのでしょう。

●夫にプラスされる加給年金

加給年金とは、年金の家族手当のようなものです。
節子さんの夫は20年以上サラリーマンだったので、妻に対する加給年金がプラスされます。妻の年収が850万円以上になるとだめですが、節子さんにはそんなに収入がないので、加給年金がプラスされます。

●2階だけの期間はもらえない

節子さんの夫は60歳から年金をもらっていますが、60歳から62歳になるまでは、2階部分の年金だけ。62歳になって1階がスタートします。1階がスタートしないと、加給年金はプラスされません。

●加給年金は妻65歳まで

妻が65歳になれば、加給年金はそこでストップ。
しかし、これは厚生年金に20年以上(特例15年)に入っていない妻の場合です。
節子さんのように20年厚生年金に加入していたら、節子さんの老齢厚生年金(2階部分の年金、報酬比例部分)をもらう権利が発生したときに、加給年金はストップします。

●60歳でストップ

節子さんが60歳になって、自分の年金をもらうようになれば、加給年金はストップします。節子さんは60歳からは2階部分の年金しかもらえないけれど、それでも、加給年金はストップします。

●かえって損をするよ!

節子さんが自分の年金を30万円もらうことで、夫の加給年金40万円がなくなるなら、夫婦で考えると、マイナス10万円。
これなら、もらいたくないと節子さんは思いました。

●手続きしないでおこうかな

もらいたくないから、手続きしないでおこうかと節子さんは思いました。61歳になって、自分の年金が増えるときに手続きすればどうでしょうか。 ●それはだめ!

残念ながら、節子さんが61歳で年金の請求すれば、60歳時にさかのぼって支給されます。
そうなったら、夫がもらっていた加給年金はもらいすぎとなって、あとで返すことになります。
結局、手続きを1年おそくしても、うまくいきません。

●もらいたくないよ

手続きしない限り年金はもらえません。一生手続きしなければ、年金をもらうことはありませんが、ある一定の期間だけもらいたくないということはできません。
●ここが変わる

2007年4月から「受給権者の申出による支給停止制度」がスタートします。
「その年金、今はほしくないよ」という場合、本人が申し出ることによって、その期間年金の支給を停止することができるというしくみです。
そのあと、やっぱりほしいというときには、申し出ることによって、その時点から年金を受け取ることができます。

●どんな人が利用するの?

節子さんのように、自分の年金をもらえば加給年金がもらえなくなり、結果として夫婦の年金が少なくなってしまうというような場合に、利用できればいいのですが、残念ながら、このようなケースでは利用できません。
今後、詳しいことが政令で出されるので、不透明な部分もたくさんありますが、加給年金をもらうためには利用できません。仮に、申し出たとしても、加入年金は、ストップすることになります。
●どんなケースがあるの?

遺族年金をもらえば児童扶養手当がもらえないなどの場合も、考えてみましたが、この組み合わせでは、遺族年金のほうがあきらかに多いと思います。
今のところ、思い当たりませんが、他にも該当するケースがないとは言えません。年金は思いもよらないところに、落とし穴があったりしますから。
年金をもらいたくない人って、どんな人でしょうか。

●雇用保険が関係してくると、また違う話!

節子さんが60歳で退職して、雇用保険から失業給付をもらう場合は、節子さんの年金は全額支給停止です。その間は、夫の加給年金もストップしません。
ただし、雇用保険は再就職するつもりがないともらえないことになっています。
パン教室を開く節子さんは、自営業になりますので、ほんとは、失業給付(基本手当)はもらえないので、念のため!

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しかし、なんだか、変ですね。 本来もらう年金を辞退したほうが得になるというしくみ。
自分の年金をあたりまえにもらって、かえって損をしてしまうという、年金のしくみそのものに問題がありますね。夫婦単位で年金のしくみが作られているのです。
妻が夫に扶養されているのが「あたりまえ」という時代は過去のものになりつつあります。
妻に対する加給年金、ほんとに必要なのでしょうか。
社会保険庁がミスをするほど、この加給年金は複雑です。そして、加給年金があることによって、女性が自分で自分の働き方を制限することケースもあります。
妻に対する加給年金、もっと論議されるべきことだと思います。
しかし、たんに廃止となれば、結局年金が減っただけということになりますので、それでは、「公平」という名のもとの「年金改悪」にしかなりません。
厚生年金に加入している誰もが受け取る報酬比例部分をもっと増やすという方向で、検討できないものでしょうか。

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イラストはすべてご自分で描かれています。