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知っておきたい年金のはなし    第67号 2005年1月11日発行

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年金相談でこんなことを言われました。
「年金額が少なすぎる!」
「社会保険事務所で年金額を教えてもらったときは、ショックだった」
連続して二人の方からでした。
しかし、二人とも、給料の多い人。他の人と比べると、年金も決して、少なくありません。
私に苦情を言われても困るけれどなあと思いつつ、やり場のない怒りはどうしようもなかったのでしょうね。
「知っておく」ということは大切です。複雑すぎてわかりにくい制度に問題はありますが、あとで「しまった、おそかった」とならないために、知っておくことは大切です。
今日は、前回に引き続いて、繰下げのお話です。繰下げとは年金を遅くもらうということでしたね。
年金の繰下げを待っている間に「落とし穴」にはまってしまったお話です。

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第68号 こんなはずではなかったのに!
★★★ 繰下げの落とし穴 ★★★
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佳代さんは69歳。ずっと専業主婦でした。
夫は自営業です。若いときは会社勤めをしていましたが、その後、親の店を継ぎ、国民年金加入期間が長い人です。
佳代さん自身の年金は、1階の年金(老齢基礎年金)のみで約70万円。これでは、とても生活していけません。
老後は子どもにお金のことで迷惑をかけたくないと考えて、佳代さんは年金を増やす方法はないかとあれこれ探しました。そして、国民年金を遅くもらう、つまり繰下げることにしました。
70歳まで待てば、年金が188%になると知って、「これはいい!」と思いました。幸い、蓄えもあったので、70歳までは夫の年金やこれまでの蓄えで生活し、そして、割増しのついた年金をもらおうという計画でした。 あと数ヵ月で70歳というときに、夫が亡くなりました。半年前から具合が悪かったのですが、入院治療中に、亡くなりました。
佳代さんは、遺族年金をもらえるかもしれないと聞いて、社会保険事務所に行きました。
実際に遺族年金をもらっている友達から、遺族厚生年金と自分の老齢基礎年金は両方もらえると聞いて社会保険事務所に行ったのですが、大変なことになりました。
なんと、両方もらえるけれど、繰下げができないというのです。
「せっかく自分の年金を増やそうと思って今まで待ったのに!」と佳代さんはどうしても納得できません。
ほんとにそうなのでしょうか。

●繰下げ率は188%

佳代さんは昭和10年生まれです。昭和10年生まれの人は、1階の年金(老齢基礎年金)を70歳まで待てば、年金額は188%になります。2倍近いです。

●佳代さんの夫の場合

夫は自営業の期間が長い人ですが、厚生年金加入期間もありました。亡くなるときは、1階の年金と2階の年金をもらっていました。
こういう夫が死亡した場合は、妻に遺族厚生年金の権利が発生します。
すでに老齢厚生年金をもらっている夫が死亡すれば、妻は遺族厚生年金をもらえることになります。ただし、厚生年金加入期間が短ければ、年金額は少ないです。

●自分の老後の年金と遺族厚生年金はいっしょにもらえるの?

佳代さんは65歳以上の人。佳代さんの場合、夫が死亡すれば、自分の老齢基礎年金と夫死亡による遺族厚生年金は両方もらえます。

●じゃあ、それでいいじゃない?

佳代さんは69歳現在ですが、繰下げを待っていたので、まだ自分の老齢基礎年金をもらっていませんでした。 当然、割増しのついた老齢基礎年金と遺族厚生年金をもらえるものだ思っていました。ところが、「繰下げ請求はできません。割増しのついた年金はもらえません」と言われました。

●そんなのってないよ、今まで待っていたのだから!

繰下げ請求にも条件があります。
遺族厚生年金の受給権者であった場合には、繰下げを申し出られないという決まりがあります。

●そんなことなら、遺族年金は必要なし、自分の年金をもらうから

佳代さんが遺族厚生年金をもらえるといっても、少ない金額です。
繰下げてもらう自分の老齢基礎年金のほうがかなり多いです。
遺族厚生年金は要らないよと言っても、佳代さんには遺族厚生年金の権利があるので、繰下げはできません。

●いったいどうなるの?

佳代さんは、割増しのつかない通常の老齢基礎年金と遺族厚生年金をもらうことになります。
遺族厚生年金は夫死亡のときからですが、老齢基礎年金は65歳時にさかのぼって繰下げをしなかったものとして、まとめて今までの分をもらうことになります。

●遺族厚生年金を請求しなかったらいいの?

請求する、しないに関係なく、遺族厚生年金の権利が発生していることには間違いなければ、繰下げはできません。

●もし、すでに繰下げ請求していたら

もし夫が亡くなる前に繰下げをしていたら、繰下げた老齢基礎年金と遺族厚生年金、両方もらうことができました。
不謹慎なことかもしれませんが、夫が死亡する前に繰下げ請求すればよかったのです。

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年金を早くもらう「繰上げ」についてはよく注意点が書かれています。一生少ない金額になるとか、障害年金をもらえないとか、そういうことを覚悟して請求してくださいよということです。
しかし、年金を遅くもらう「繰下げ」の注意点というのは、ほとんど知られていないように思います。
佳代さんがもらえる遺族厚生年金は年間で約25万円。遺族厚生年金の権利が発生したので、もらえる年金額は、老齢基礎年金70万円と遺族厚生年金25万円、あわせて95万円。70歳から繰下げしたら、老齢基礎年金だけで約130万円。
70歳で繰下げした方が年金額ではお得です。
しかし、今の法律ではそれができないと言っているのです。
これはまさしく「繰下げの落とし穴」です。こういう落とし穴もあるのだとわかった上で、繰下げのしくみは利用しましょう。
ただし、遺族厚生年金をもらえるかもらえないかは、個々の事情によりますので、必ず、自分の場合はどうなのかを確認してください。

※ 2004年の年金改訂で、「改正」されます。05年4月以降、このような場合でも、繰下げをすることができます。佳代さんのケースでいうと、遺族厚生年金の受給権が発生したときに、「繰下げを申し出たもの」としてみなされます。
しかし、05年4月以降のこと。すでに、こうなってしまった佳代さんは救われません。

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