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知っておきたい年金のはなし    第278号 2011年9月26日発行

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先日、厚生労働省へ行ってきました。
社会保険審査会の公開審理を傍聴するためです。

年金の請求をして認められたら問題ないのですが、認めないという不支給決定を受けると、納得できないですよね。

決定に不服があるときは、審査請求ができますが、まず、社会保険審査官に不服を申し立て、ここでも認められないときは、社会保険審査会(厚生労働省の中にある)へ申し立てます。

その最終的な審理は公開となっていて、当事者は意見を述べることができます。
傍聴もできるようになっていて、半日、公開審理の様子をみてきました。

「わざわざ福岡から行ったのですか」と聞かれますが、わざわざ、そのためだけに行きました。
飛行機代を節約するため、スカイマークで行きましたが・・・

傍聴して、いろいろなことがわかりました。
ほんとうに勉強になりました。

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第278号 老齢基礎年金の繰下げ請求遅れ
★★★ 本人に責任はあるのか ★★★
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菊枝さんのお父さんは、長年、料理人としてお店を経営してきました。
65歳で経営をしりぞき、菊枝さん夫婦が店を切りもりしています。

その後もお父さんは、料理人として仕事をすることはありましたが、このところ、もの忘れがひどくなり、様子がおかしくなりました。
心配した菊枝さんは、お父さんを病院へ連れていきました。すると、認知症が進んでいることがわかりました。

お父さんは自分でお金の管理をすることがむずかしくなってきたので、菊枝さんがお父さんのお金の管理をすることになり、通帳を預かりました。

通帳を預かって気がつきましたが、お父さんには年金がわずかしか振り込まれていません。自営業でしたので、国民年金でしたが、店を始めるまでは厚生年金に加入していたこともあります。
国民年金へ切り替わってから、几帳面なお父さんは、お母さんの分と合わせて国民年金の保険料を払っていました。その証拠に、お母さんは老齢基礎年金を受け取っています。

お母さんの年金額と比べて、お父さんの年金額が少ないのです。
お母さんより少ないのはおかしいと思った菊枝さんは、年金事務所へ行きました。

その結果、重大なことがわかりました。
お父さんが受け取っているのは厚生年金のみで、国民年金(老齢基礎年金)は繰下げの請求もれとなっているということです。
本来70歳で繰下げ請求すべきだったのですが、そのままになっているというのです。

お父さんに支給されているのは老齢厚生年金のみで、老齢基礎年金は支給されていませんでした。

今すぐに手続きをしようとしましたが、手続きをした翌月からしか年金は支給されず、現在71歳のお父さんは、すでに1年分の年金はもらえないというのです。

お父さんは認知症のため、年金の手続きなどわからなかったと思われます。
手続きが遅れたからといって、70歳からの1年分を支給しないというのは、おかしいのではないでしょうか。

●老齢基礎年金は65歳から

老齢基礎年金の支給開始は65歳からです。条件を満たしていれば、65歳から老齢基礎年金をもらうことができます。

●早くもらうことも可能

65歳よりも早く受け取ることも可能です。希望により60歳からもらえます。
ただし、年金額は減額されます。

●遅くもらうことも可能

受取りを遅らせることもできます。70歳まで遅らせることができます。
繰下げすると年金は増額されます。

●繰下げの注意点

繰下げにより年金は増えますが、お得かどうかは、寿命しだい。
70歳まで遅らせて増額された年金をもらいはじめても、すぐに死亡すれば、65歳からもらった方がよかったということになります。

●繰下げ増額率

1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額されます。
70歳で請求すると、60ヵ月遅らせることになるので、42%増額です。

●支給は請求の翌月から

このように繰下げは、66歳から70歳までの間に請求することができますが、実際の支給は請求のあった翌月からとなります。
9月25日が70歳の誕生日ですと、誕生月の9月に請求すると60月繰下げすることになり、翌月の10月分から割増のついた年金が支給されます。

●請求が遅れたら

9月に請求せず、10月に請求に行けば、年金の支給は11月分からとなり、10月分の年金は受け取れません。

●請求遅れは大変な損に

菊枝さんのお父さんのように、1年も請求が遅れると、あくまでも請求した翌月からしかもらえないので、せっかく割増がついたのに、1年分はもらえず、大損です。

●さて、どうすればいい?

菊枝さんのお父さんは、今月中に繰下げ請求をするか、あるいは65歳時点にさかのぼって請求するか、いずれかです。

●今から65歳時点での請求ができるの?

できます。しかし、年金は5年しかさかのぼることはできないので、71歳の今となっては、65歳から1年分の年金はもらえません。
65歳で請求するか、このまま繰下げ請求するか、金額を計算して検討するしかありません。
いずれにしても、年金で損をしてしまったのです。

●なぜこんなことになったの?

菊枝さんのお父さんは、65歳時で提出するハガキの中で、「繰下げ」に○をつけてしまったようです。
繰下げがどういう意味だったのか、わかっていなかったのではないでしょうか。

※注意点
菊枝さんのお父さんは、昭和16年4月1日以前に生まれた人なので、70歳で繰下げをすると、88%増額します。

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私が傍聴した公開審理では、この繰下げの案件が多かったです。

このメルマガは、私が作ったお話ですが、繰下げをめぐっての申立てが多いことがわかります。

「請求した翌月から支給」というのは、繰下げ増額率が月単位なので、その意味はわかります。
しかし、70歳以降は、増額しないのです。
70歳以降で請求が遅れた場合、70歳で請求があったものとみなすというように法改定すべきだと思います。

手続きしなかった本人の責任と言えるでしょうか。

こんなしくみになっていることを、知らない人の方が多いのでは?

また、高齢になっていくと、もの忘れが多くなったり、認知症になったりということもあります。
65歳時点では理解していても、その後、病気や老化のためにわからなくなってしまうということはありますね。
なんとか、救済できるように、法改正できないものでしょうか。

公開審理を傍聴してわかりましたが、請求人は、せつせつと訴えられます。
でも、感情だけで結果が動くことはないでしょう。支給の根拠となるものを示さなければなりません。
いろいろと勉強にはなりましたが、気持ちも重くなりました。
10月に、再度、傍聴に行こうと思っています。

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