★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

知っておきたい年金のはなし    第319号 2013年12月1日発行

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

大変興味深い判決が出ていました。(大阪地裁 11月25日)

簡単にまとめると次のとおりです。

女性教師が勤務先の学校で、校内暴力などで1997年にうつ病を発症し、夫が51歳だった1998年に自殺。

その後、労災にあたる「公務災害」と認められ、夫は遺族補償年金の支給を求めたが、支給対象は夫を亡くした妻か、妻の死亡時に55歳以上の夫とする地公災法の規定を理由に不支給とした。

不支給決定の取り消しを求めた訴訟の判決があり、大阪地裁で「男女で受給資格を分けることは合理的な根拠がない」として、規定を違憲と判断し、決定を取り消した。

この判決の影響、これから出てくるのではないかと思います。

特に遺族年金の仕組みは、不平等です。
今にはじまったことではないのですが・・・

……………………………………………………………………………………………
第319号 夫の年齢と遺族年金
★★★ 救われない55歳未満の夫 ★★★
……………………………………………………………………………………………

54歳の武夫さんは先月、妻を亡くしました。

武夫さんは大学を出て大手の企業に就職し、そこで一生働き続けるものと思っていました。

ところが、武夫さんが45歳のとき、会社の経営状態が悪くなり、大勢の社員が解雇されることになりました。

武夫さんは、まだ45歳だったこともあり、これからを考えて退職を決め、紹介を受けた会社へ転職しました。

しかし、これまでの会社とは条件も仕事も異なり、武夫さんはストレスから体調を崩してしまいました。

結局、その会社を辞め、その後、何度か、転職をしました。病気もよくなったり、悪くなったりでした。

やっと、現在の会社に就職し、体調も安定し、ここで働いていけると思っていたとき、突然、妻が亡くなりました。

武夫さんがこれまでやってこられたのは、妻のおかげといっていいほどでした。

妻は2人の子育てをしながら働き続け、武夫さんより収入が多くなっていました。
ふたりの子どもの教育費も妻の収入がなければ無理なことでした。

そんなとき、妻は心臓発作で、あっというまに亡くなってしまいました。

下の子どもはまだ高校3年生です。

武夫さんは、悲しみのうちにもいろいろな手続きをし、遺族年金について年金事務所に問い合わせに行きました。

すると、武夫さんには遺族年金の資格がないというのです。
高校3年生の子どもに遺族年金の権利はあるけれど、高校を卒業するまでと言われました。
もう数か月しかありません。

武夫さん一家は妻の収入で成り立ってきたのです。
妻は厚生年金に加入してきました。
武夫さんは年金制度に無知だったことは認めますが、納得できません。

●厚生年金加入中の死亡の場合

遺族厚生年金をもらうには条件がありますが、厚生年金加入中の人が死亡したときには、対象となる遺族に、遺族厚生年金が支給されます。

●保険料の未納期間は?

未納期間によっては対象とならないこともありますが、武夫さんの妻は若いころからずっと厚生年金に加入していますので、問題ありません。

厚生年金加入中に「未納」は発生しません。

●対象となる遺族とは?

配偶者は遺族厚生年金をもらえる遺族です。
夫が死亡して妻が遺族厚生年金を受け取るとき、妻に年齢制限はありませんが、妻が死亡して夫が受け取るときには、夫に年齢制限があります。

●55歳以上の夫

妻が死亡したときに55歳以上の夫でないと遺族厚生年金はもらえません。
55歳未満の夫は、どんなに困っていても対象外です。

●遺族基礎年金は?

遺族基礎年金をもらえるのは子どものいる「妻」となっていますので、やはり「夫」である武夫さんはもらえません。(26年4月に法改正予定)

●誰がもらえるの?

武夫さん夫婦の下の子どもです。
18歳の年度末までの子どもは対象となりますので、現在、高校生の子どもが遺族厚生年金と遺族基礎年金の受給権者となります。

●誰かがもらえるなら、それで良いのでは?

子どもの場合、18歳の年度までです。すでに高校3年生。あと数か月しかもらえません。
大学進学を考えているのであれば、お金がかかるときに、遺族厚生年金はありません。

●しかも遺族基礎年金は支給停止

高校生の子どもは、おかあさんが亡くなったあと、おとうさんといっしょに生活していくので、遺族基礎年金は支給停止となります。

●ほとんどもらえないってこと?

そうです。数か月間、遺族厚生年金を受け取るだけです。

●なぜ夫には年齢制限があるの?

年金制度が誕生した時代背景を考えてみましょう。
夫は外で仕事、妻は家庭を守るといった世帯が多く、妻が亡くなったあとの夫の生活保障は考えなくてもよいと判断していたのでしょう。

●今は違うよね

事情が変わってきました。
共働きでないと暮らしていけない若い世代も多く、どちらが死亡しても、残された家族は困るという家庭が多くなってきました。

●法改正が必要では?

来年の4月から遺族基礎年金の対象者は「子のいる妻」から「子のいる配偶者」に改正される予定です。
ただし、遺族厚生年金の夫の年齢については、今回の改正では見直しはありません。

……………………………………………………………………………………………
大阪地裁の判決は、公務員の業務上災害に関してですが、男女で受給資格を区別するのは違憲であると判決を下しているのです。

これは、公的年金制度の仕組みが憲法の精神に反していると言ってくるのと同じことです。

この問題が大きくなると、何らかの案を出してくると思われますが、また、年金財政の問題が出てきますね。
年齢に関係なく夫を認めるかわりに、所得制限をきびしくするような案が出てくるかもしれません。

妻だの、夫だのということではなく、困ったときには救済してくれる制度であってほしいと思います。それが年金制度のほんとの姿でしょう。

……………………………………………………………………………………………

■□■ お知らせ ■□■

●FP専門家ネットワーク「マイアドバイザー」にてコラム掲載中

「ライフプラン別コラム」女性と社会保険を担当しています。
http://www.my-adviser.jp/column/index_cat.php?cat=5

●書斎りーぶる主催 「やさしくためになる すがのみわこの くらしとおかねカフェ」

次のテーマは「確定申告で税金を取り戻そう!」
年末調整で申告し忘れ、年末調整でできない申告など、確認して、税金を取り戻しましょう。
会社で受け取る源泉徴収票もしっかりチェック!
2014年1月22日(水) 19:00〜20:30 
福岡市中央区天神 「書斎りーぶる」にて 参加費500円(コーヒーとクッキー付き)