サラリーマンの小遣い給

ある会社でのこと。業績がよかったので「期末手当」が支給されることになった。ただし、金額は最高でも10万円と、多くはない。30代の男性社員Aさん、会社の給与担当者にこんなお願いごとにきた。
「今回の期末手当だけ、別の銀行口座に振り込みできませんか」

給与振込み口座を変更するわけではなく、今回の期末手当だけ別の口座に入金してほしいとのこと。
「奥さんに内緒にしたいのですね」と給与担当者に言われて、Aさんは苦笑い。別にやましいことはないけれど、妻には期末手当が入ったことを内緒にしておきたい、自由に使える「小遣い」がほしいと彼は言う。
「ぼくは月給ではありません。小遣い給なんです。大変なのですよ、やりくりが」

Aさんは共働きで子どもがふたり。給与振込み口座は妻がしっかり管理している。自分の給与とは名ばかりで、妻から毎月一定の「小遣い」をもらっている。その小遣い交渉が大変で、妻はなかなか値上げしてくれない。Aさんは自分で稼いでいるのになあと思うけれど、妻に言わせれば、しっかり管理しておかないと家計が大変、我が家のライフプランを考えたら、とても値上げには応じられないという。いろいろ理由をつけて、家計に必要なお金まで使ってしまわれると困るので、定額の「小遣い」を渡すほうが安心できるというわけだ。
「家計が大変なのよ。子どもの学校の費用だってこんなに必要なのよ」と妻に言われれば、それは正論であるがゆえ、また、Aさんの給与も世間一般よりも低いため、反論できない。
しかし、そうはいっても、なんとか、自由に使えるお金がほしいというのは、正直な気持ち。こんな状況はAさんだけはない。よくある話だ。

「小遣い給」を渡されている夫側にも、自由に使えるお金を手に入れる工夫の仕方がある。社内預金で給与から一定額天引きしておいて、あとでこっそり社内預金を引き出すという夫もいる。また、年末調整の戻り分は、全額自分がもらうことになっているという夫。年末調整は必ず戻りがあるとは限らないのにと思うけれど、涙ぐましいものがある。期末手当を別口座に振り込んでほしいというAさんも、きっと「これだ!」と思いついた、とっておきの方法だったのだろう。

ちなみに、我が家の家計は「拠出制」である。家計用の銀行口座を別にして、夫と私がその口座に必要なお金を入れる。家計に必要なものはそこからまかなう。残った自分の収入をどう使おうがお互いに関知しない。しかし、夫をみていると、お金が余分に必要な月であっても一定額を家計に拠出しないといけないので、それも「小遣い給」と同じくらい大変なようである。

小遣い給と家計への拠出制、違うように思えるが、実は、しっかり家計管理をしているという点では同じである。家計管理の手法は違うけれど、妻まかせではなく、夫も家計管理に参加しているのである。Aさんも、我が家の家計がよくわかるからこそ、「小遣い給」でやりくりしているのだろう。
なんとか、期末手当を別口座に振り込んでもらったAさん。飲みに行ったのかなあ?
「いやいや使っていませんよ。厳しい月があるから、そのときのために残しているのです」
Aさんは自分の「小遣い給」もきちんと管理できているようである。