すてきな老後への投資

長い間、病院で看護師として仕事を続けてきたA子さん、定年退職を前に仕事を辞めた。A子さんは夫とふたりで一戸建ての持ち家に暮らしていた。3人の息子たちはみな独立した。子どもたちといっしょに暮らしていた時には狭く感じた家も、ふたりになると広すぎた。

「お金の一番いい運用方法は何かしら。ペイオフ対策はどうしたらいいかしら」とA子さん。
これまでの貯蓄、自分の退職金。そのお金をどう活かそうかと、実はA子さんは長い間考えていた。ペイオフ全面解禁で、銀行に預金しておくのも心配していた。しかし、その他の活用も決めかねていた。

A子さんにはやってみたいことがあった。自分の老後を託せるような介護施設を作ることだった。A子さんの勤めていた病院にはお年寄りが通う「デイサービス」が併設されていて、そこで1日を過ごすお年寄りの姿を見てきた。その様子を見て、A子さん自身は、ここでは過ごしたくないと感じた。いっしょにお遊戯のようなことをしたり、歌を歌ったりの毎日、私にはとてもできないなあ、自分のしたくないことを強制されたくないなあとA子さんは思う。しかし、ひとりで暮らすのも不安だし、子どもたちに頼れないのも現実だ。

A子さんはあれこれ考えた。ひとりの時間もゆっくりすごしたいけれど、時々は気のあった友達と楽しく過ごせたらいいなあと。そして、ひらめいた。私が利用したくなるような施設があればいいんだ!

A子さんはまず夫に相談した。最初は慎重になっていた夫もA子さんの熱意に動かされた。さあ、行動開始! 

まず、夫婦2人が暮らせるような手ごろなマンションを探した。バリアフリー設計で、セキュリティもしっかりして、とにかく、病院にも買物にも便利なマンションを購入する。そこに住む。そして、現在住む広い家を、デイサービスかグループホームなどの介護施設にすることにした。

もちろん、介護事業は個人では運営できない。A子さんは看護師という経験から知り合いも多く、いっしょにできる仲間をみつけてきた。みんながここで過ごしたいと思えるような施設を作るために、看護婦としての経験を生かし、これからの自分のお金と時間を使うことにした。

夢は、地域の高齢者のたまり場になること。それは認知症の予防にもなり、住み慣れた地域で、ずっと暮らしていけることになる。そんな地域の「寄り合い所」を作りたいと、A子さんは夢を語る。

A子さんが選んだ投資は、自分の老後への投資である。すぐには利益を生み出さないし、リスクは多すぎるかもしれないが、安心してそして自分らしく暮らしていくための投資である。そして、投資の成果は、「ここで過ごせてよかったね」というみんなの笑顔。A子さんを見ていて、そんな投資もあるのだと思った。

私にお金の相談をしながら「あなたも将来は利用してくださいね」とA子さん。介護が必要でないくらいに元気に過ごしたいが、いざというときに安心してお世話になれるところがあるとうれしい。