年の差婚

結婚に年の差は関係ない? 年の差の影響は?

一般的に夫が年上、妻が年下というご夫婦が多いですが、「この人が伴侶」と思えば、年上だの年下だの、年の差は当人にとっては関係がないことかもしれません。

20歳年下の女性と再婚した男性のお話を聞きました。
彼が心配だったのは、年頃の娘さんのこと。妻は娘よりちょっと年上という程度で、妻と娘の間には通常の親子のような年の差がありません。いっしょに暮らしていけるかどうか心配されていましたが、ある日仕事から帰ると、リビングで妻と娘がお茶を飲みながら楽しそうに話しているという場面に出合いました。まさに同世代の友達同士の会話で、彼とは世代が違うため、「宇宙人が会話しているようでしたよ」とおっしゃいました。この方は、妻と娘の様子をみて、ほっとされたのでしょう。

「愛があれば年の差なんて!」ということですが、年の差があることにより考えておかねばならないこともあります。

★38歳、年の差婚を決めました

冬美さんは38歳。百貨店で営業職として働いています。仕事はおもしろく、成績も上がり、同年代の女性より収入は多いでしょう。今の生活に不足はありません。町の中心部にあるマンションで、快適に過ごしています。休日にはスポーツジムへ通ったり、趣味のサークルへ参加したり、誰に気兼ねをすることなく暮らしています。 少し寂しく思うのは、次々と同じ年代の友人が結婚していったことでしょうか。シングル時代には気軽につきあえても、結婚すると、食事にも誘えません。冬美さんも20歳代の頃には早く結婚したいと考えていました。なんとなく結婚へのあこがれがありました。

実際に結婚を考えた相手もいましたが、結婚話はまとまりませんでした。恋人でいるうちはいいけれど、いっしょに暮らすとなると、現実的な価値観の違いが見えてきて、結婚には踏み切れませんでした。こんなふうに結婚の機会を逃してきましたが、そのうち、今の生活に不足はないし、無理して結婚しなくてもいいと思うようになってきました。妥協して結婚するのはつまらないと思えてきたのです。

そんなわけで、自分では結婚しないことを問題に思ったことはありませんでしたが、周囲は違いました。特に親や親せきから、「まだ結婚しないの?」などと、いろいろと言われました。

冬美さんは周囲の声を無視していましたが、あるとき「彼」と出会いました。いっしょに仕事をする機会があり、そのうち、プライベートで食事にいったりするようになり、彼と過ごすのが楽しくなってきました。そんなとき、彼から結婚を申し込まれたのです。彼は55歳で、バツイチです。今はひとり暮らしですが、別れた妻との間にはひとり娘がいて、その娘をとても大切に思っていることもわかっていました。

話は突然でしたが、価値観も合い、いっしょにいるのが楽しいし、この人となら同じ家で暮していけると冬美さんは感じたので、迷わず結婚を決めました。

すぐにいっしょに暮らそうという話になったので、親をはじめとして、周囲の人たちに結婚することを伝えました。相手は初婚でない上、かなりの年の差があるので、多少の反対はあるものと覚悟していましたが、冬美さんは予想外の大反対をあびました。

これまで「結婚はまだ?」と聞いていた人たちが、「そんな年上の人と結婚するなんて!」と声をそろえて大反対です。冬美さんのお母さんまで、「娘が騙されている」と泣き出す始末。

反対の理由はいろいろです。「介護をするために結婚するようなものよ」「財産目当てとか言われるわよ」など、当人どうしがよいと思っての結婚なのに、なぜここまで非難をあびるのかと、冬美さんは周囲の声にうんざりしてきましたが、ふと、年の差婚で影響を受けることがあるのかどうかと思いました。

★夫婦の年の差と年金制度

冬美さんにはかねてからの夢がありました。自分で雑貨の店を経営することです。彼は冬美さんの夢への理解もあり、支援してくれることになっています。今の仕事に区切りがついたら会社を退職します。退職後は自分の店の準備に入ります。新しい事業が安定するまで、夫の扶養家族になる予定です。

扶養家族となれば、健康保険も国民年金の負担もありません。夫からの援助に頼るばかりではなく、しばらくはこういった社会保険制度を上手に利用したいと冬美さんは考えています。

ところで、社会保険制度と夫婦の年の差には関係があるのでしょうか。

実は、夫婦の年の差の影響を受けるのは年金制度です。

年金制度は個人単位となっていますが、夫婦単位で構成された制度です。それも年上の夫が年下の妻を扶養するということを想定して作られた制度です。厚生年金保険は戦時中に、そして国民年金は昭和36年にスタートしました。そのような時代に作られた制度ですので、夫は外で働き、妻は家庭を守るというような考え方を背景にして制度は作られています。

冬美さんは退職後、夫の扶養家族になるので、国民年金の第3号被保険者となります。

第3号被保険者とは20歳から60歳未満で、第2号被保険者(厚生年金や共済年金に加入している人)に扶養されている配偶者です。

冬美さんの夫は厚生年金に加入しています。38歳の冬美さんは、退職後、第3号被保険者となれますが、ここで年の差が影響します。

冬美さんの夫は会社役員ですので、定年はなく、働き続ける限りはその職にあり、70歳まで厚生年金に加入を続ける予定です。夫が厚生年金に加入している限り、その妻は国民年金の第3号被保険者になれると思いがちですが、そうではありません。

夫が65歳になると、妻は第3号被保険者ではなくなります。夫の厚生年金加入が継続しても、夫自身が国民年金の第2号被保険者となるのは65歳まで。つまり、65歳までは厚生年金と国民年金、ふたつの制度に加入となりますが、65歳以降は厚生年金にだけ加入し、国民年金には加入できないという、ちょっとわかりにくいしくみになっています。支払う保険料は減額されるわけではないので、なおさらわかりにくいでしょう。

夫が国民年金の第2号被保険者でなくなれば、その妻も第3号被保険者ではなくなるので、夫65歳以降は、妻は第1号被保険者として自分で保険料を納付しなくてはなりません。

共働きの妻ならまったく関係ないのですが、扶養されている妻は、年が離れていると、第3号被保険者となれる期間が短くなります。

もちろん、この先、冬美さんの事業が成功して、扶養の範囲からはずれると、第3号には関係なくなりますが、冬美さんのように年下の妻の場合は、第3号となれる期間が短いということです。今後すっと冬美さんが夫の扶養となると仮定しても、国民年金の第3号被保険者となれるのは、最大であと10年間です。

反対に年下の妻に有利になる制度があります。

同じく、夫が会社員で妻を扶養しているというケースですが、20年以上厚生年金に加入している夫に、対象となる妻(年収850万円未満)があれば、配偶者加給年金額が加算されます。配偶者加給年金とは年金制度における妻手当のようなものです。

この配偶者加給年金額は夫が65歳以降(昭和24年4月2日以降生まれの男性の場合)に加算され、妻が65歳になるまで加算されます。

ここがポイント。

妻が65歳になるまでです。ということは、年下であればあるほど、配偶者加給年金額が加算される期間が長いということです。同い年や年上の妻の場合は配偶者加給年金額が加算されませんが、年下であれば加算があります。

17歳年下の冬美さんの場合、夫婦として暮らしていれば、17年もの長きにわって加算されるというわけです。配偶者加給年金額は1年間で394,500円(平成23年度)ですので、17年間で約670万円年金が上乗せされることになります。これは大きいですね。

★夫婦の年の差と遺族年金

年の差がある夫婦の場合は、伴侶が亡くなりひとりになる時期が早くやってくると考えておきましょう。お互いが平均寿命まで生きると仮定すると、年下の妻の場合は、夫が亡くなったあと、ひとりで暮らす年数が長くなります。 ひとりになったときの暮らし方、住まい、生きがい、お金など考えておかねばならないことはいろいろあります。

お金については、厚生年金加入期間のある夫が死亡すればその妻には遺族厚生年金が支給されます。もちろん、保険料の納付や加入期間など、要件を満たしていないと遺族年金は支給されませんが、要件を満たすものとして考えると、遺族年金は妻の年齢と深いかかわりがあります。

子どもがいるかどうかによっても異なりますが、冬美さんは子どもを持つ予定はありませんので、子どもがいないケースでお話しましょう。

夫が死亡したときの妻の年齢によって、妻が受け取れる遺族年金の内容が異なってきます。夫死亡当時に妻が40歳未満であれば遺族厚生年金のみ。遺族厚生年金とは、夫の給与や賞与、厚生年金の加入期間などで計算されます。すでに老齢厚生年金を受給中の夫が死亡した場合は、老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3を目安にします。夫の老齢厚生年金が100万円の場合、遺族厚生年金は75万円だと考えてください。(遺族年金の支給要件には、遺族の年収が850万円未満であることが必要です。)

さらに、夫死亡当時に妻が40歳以上であれば、中高齢寡婦加算が上乗せされます。中高齢寡婦加算は年間591,700円です。亡くなった夫が要件を満たしている場合、40歳から65歳になるまでの妻に加算されます。中高年の妻への年金上の手当と考えてください。約60万円が加算されるか、加算されないかは、妻の遺族年金額に大きな影響を与えます。

年の差のある夫婦の場合、妻が遺族年金を受け取る期間も長くなることが考えられます。

冬美さんの場合はあてはまりませんが、夫が死亡したときに、妻が30歳未満で子どもがいない場合などは、妻が受け取る遺族厚生年金は5年間に限られます。

いずれにしても、年の離れた妻の場合、夫死亡後のひとり暮らしの年数が長く、必要な生活費も多くなります。遺族年金は生活保障となりえますが、それだけでは十分だと言えません。若い妻はその不足を補うことを考えておく必要があるでしょう。もちろん、遺族年金に頼らず、自分でしっかり働くことも対策のひとつです。

★介護を背負う

「年の離れた人と結婚すれば介護を背負うことになるのでは?」と冬美さんはまわりの人に言われます。

介護は年代にかかわらず考えていかねばならないことですが、年の差があると、若い妻が年上の夫の介護をしなければならないという可能性も高くなります。

夫がいつまでも元気でいてくれるといいのですが、高齢期になると介護という問題も発生します。当然、若い妻に負担がかかることも考えられます。

介護が必要になった場合は、家族介護だけで考えるのではなく、公的介護保険を利用することもできます。 公的介護保険を利用するには市区町村へ申請をします。介護が必要な状態であると判定されれば、1割負担でサービスを利用することができます。

介護保険でのサービスは様々です。自宅へのヘルパーの派遣、日中に通えるデイサービス、期間を定めてのショートステイ、施設入所などがあります。本人や家族の希望にあわせてサービスを組み合わせます。

年の差婚で、高齢になった夫の介護を若い妻が一手に引き受けるというイメージはちょっと違うかもしれません。介護サービスを利用しながら仕事を続けている人もいますし、介護保険以外の自由契約など、様々なサービスを利用し、介護という問題をなんとか乗り越えていっている人も多いのです。

本人や家族の希望、考え方もありますが、それをサポートしてくれる専門家の協力によって介護における様々な問題を乗り越えていくことができるかと思います。もちろん、これは年の差婚に限ったことではありません。

★ライフプランを考える

「年の差婚」と言っても、男性が年上の場合と、女性が年上の場合の2種類があります。

「20代男性の約3割は結婚相手が10歳年上でも構わない」というアンケート結果を、インターネット調査会社のマクロミル(東京都港区)が発表しています。

男性がしっかり者の妻を求めていたり、経済的な安定を求めていることも理由のひとつです。
また、同じことは男性が年上の場合にもいえます。経済的な不安や心理的な不安から、年の差婚を希望する女性もあるようです。

様々な思いを持って年の差婚を決めたあと、時がたつにつれて、話が合わない、思っていたほど頼りにならないなど、不満が出てくることもあります。しかし、それは、年の差が原因であるとは限らないでしょう。

いずれにしても、年の差婚の場合は、年の差のない夫婦よりも婚姻期間が短いということを想定してライフプランを考えておきたいものです。先にもお話したように、年の差婚の場合では、平均的に生きると仮定すれば、配偶者が死亡した後の生活期間は長くなります。ひとりでの生活期間が、婚姻期間よりも長くなるかもしれません。ひとりになった後どうして生活していくのか、お金ばかりではなく、生きがいも考えていかねばならないですね。

また、子どもの養育の問題もあります。

子どもが生まれたときに、父親の年齢が高い場合、子どもが成人するまでの費用をどのように準備しておくのかということも考えておく必要があります。夫がリタイアしたあとの家族の生活をどう支えていくかということですね。

結婚とは、当人の決意です。やはり、「愛があれば年の差なんて!」が結論かもしれません。しかし、社会保障制度において、年の差が与える影響をしっかり理解しておく必要があります。そして家族のためのライフプランを考えておくことが大切です。