海外で暮らす

海外で暮らす前に知っておきたい社会保障制度

留学、企業からの海外赴任、海外での就職や自営業、開業、国際結婚など、海外で暮らす機会は多くなっているようです。定年後の海外暮らしを希望する人も増えています。一度は海外で暮らしてみたいというあこがれもあるでしょう。

一時的な旅行は別として、海外で暮らすとなると、知っておかねばならないこともたくさんあります。後々困ったことにならないように、日本の社会保障制度との関係を知っておくことは大切です。

今回は「海外で暮らすし」がテーマです。

★海外暮らしに必要な手続き

「海外で暮らす」といっても、その暮らし方や滞在期間はさまざまです。短期間のホームステイや1か月程度の海外での仕事など、一時的に海外で暮らすこともあります。夏休みを利用した短期留学なども増えてきました。また、長期の留学や海外派遣、海外での勤務や就職など、数年にわたって海外で暮らすこともあります。

海外で暮らす期間や仕事先などによって取るべき手続きも異なります。通常、1年以上海外で暮らす場合は、市区町村で海外への転出届(移動届)を出し、住民登録を抹消します。海外転出届の提出については法的に細かな規定がされていません。このため役所によって対応が異なります。

日本での住民登録を抹消する(住民票が取得できなくなる)ということは、どういうことでしょうか。

住民登録がなくなると、国民年金、国民健康保険、介護保険への加入義務がなくなります。これらの制度は「日本国内に居住していること」などの居住要件がありますので、「非居住者」となれば対象外です。非居住者となれば、住民税の納付も必要ありません。印鑑登録も抹消され、印鑑証明書も取れなくなりますので、車や不動産の購入、公正役場などで遺言書を作成するのにこういったものが必要になると、困ることもあるかと思われます。

転出届を提出せずに、住民登録をそのままにして海外へ移ると、国民健康保険料も払い続けることになります。1年以上海外で暮らす場合は、喪失の手続きをしておいたほうがよいでしょう。喪失の手続きするときは、それまでの保険料を精算してください。

3ヵ月以上海外に滞在する場合は、最寄の日本大使館・領事館に「在留届」を提出する必要があります。届け出ない場合は各種証明書などの発行が行なわれません。外国人登録等は滞在国で確認してください。

では、次に海外暮らしの目的から考えてみましょう。
自営業を営むのか、留学するのか、会社からの海外赴任か、定年後に海外で暮らすのかによって、考えなければならないことも異なってきます。

★海外赴任する場合

日本の企業に所属し、海外へ赴任をするケースを考えてみましょう。
日本の企業に所属している人は、海外赴任とになっても、社会保険への加入はかわりありません。健康保険・厚生年金についてはそのまま加入を続けることになります。海外で暮らすことで資格を失うということはありません。

介護保険については、「非居住者」は対象外なので、介護保険料を支払う義務はありません。
夫について海外へいく妻も同じです。日本で扶養されていた妻であれば、国民年金の第3号被保険者のまま海外へ行きます。
夫の海外赴任のために、それまで勤めていた妻が退職して一緒にいっしょにいくという場合は、退職後、国民年金の第3号被保険者として手続きをすませておきましょう。
手続きは会社へ依頼します。

★自営業や留学国民年金の国内居住要件と任意加入

20歳以上の人が海外で仕事(自営業開業したりや現地の企業へ就職)する、あるいは留学するという場合、海外転出届を出して出国すると、国民年金への加入義務はなくなります。自営業者や学生など、国民年金の第1号被保険者の条件として「国内居住要件」があるので、外国へ出てしまうと、強制加入ではなくなってしまうのです。

ただし、日本に住民票を残したまま海外に出ると、そのまま強制加入です。住民票を削除してしまうと、強制加入ではなくなります。ので国民年金には加入しなくてもよいということですが、希望して加入することもできます。
将来日本へ戻って暮らすことを考えて、日本の年金をしっかり受け取りたいと思う人は自分で任意加入の手続きをしておきましょう。市区町村役場の国民年金課で手続きをします。

任意加入を希望するなら、海外へ出る前に、まず住民票を削除し、任意加入の手続きをしておきます。もちろん、海外に出たあとで、手続きをすることもできますが、。そのときは、最後の住所地にある年金事務所に連絡します。

任意加入するかしないかは、本人の自由です。加入しなければ、将来日本に戻ってきて日本の年金を受け取るときには少ない年金となってしますので、それでよいかどうかです。

老後の年金を受け取るときは、海外在住期間は、老後の年金を受け取るときは、カラ期間として、年金を受け取るために必要な受給資格期間(25年)にカウントされます。しかし、年金をもらう権利があるかどうかの判定に役立つだけですので、。年金を受け取る権利では役立っても、年金額には反映されません。

つまり、任意加入しない海外での滞在期間が長くなっていくと、日本の年金額はより少ない額になってしまうということです。

また、任意加入をせず、その間に、死亡したり、病気やけがケガをして障害がいの状態になったという場合、遺族年金や障害年金が受け取れないことがありますので、このようなリスクについても考えておきましょう。

海外の大学に留学するので、国民年金の学生納付特例制度を利用できないかという質問もありますが、海外転出届を出せば、第1号被保険者ではなくなりますので、学生納付特例の対象とはなりません。

日本の大学に在籍したまま、短期間留学をするような場合やは、、すでに学生納付特例の手続きをしていて、転出届を出さずに留学するのであれば、学生納付特例は継続します。ただし、学生納付特例は毎年度申請しなければなりませんので、長期にわたる留学であれば転出届を出していくことを検討してください。

★各国との社会保障協定

現在、各国間での社会保障協定の締結が進んでいます。

社会保障協定のねらいは、社会保険への二重加入を防ぐということです。日本の企業から海外赴任をした場合、厚生年金には引き続き加入しますが、赴任先国の年金制度に加入しなければならないということもあります。そうなると二重に保険料を負担しなければならないので、二重加入を防ぐ内容の協定が結ばれています。

また、赴任期間が短い場合は、赴任先国で年金制度に加入しても、その国の年金を受け取れないこともあります。そこで、日本国と相手国の年金加入期間の通算ができるように協定が結ばれています。

しかし、協定の内容は各国で異なります。一律に同じではありません。赴任先国との協定があるかないか、あればその内容を調べておきましょう。

例えば、近年赴任する人が増えている中国では、昨年7月に社会保険法が施行され、外国人に対する社会保険の加入が明記されました。中国との間には社会保障協定は締結されていないので、中国へ赴任する日本人は二重加入といった状態になってしまいます。

★定年後の海外暮らし

定年後の海外暮らしも増えています。定年後は主に年金で暮らしていくことになりますが、物価の安い国で、年金だけで暮らすことを希望する人もいます。

海外でも年金の受取りはできますので、海外へ出る前に、日本で手続きをすませておきましょう。海外でも利用できる口座で年金を受け取れば問題ありませんし、海外に出てから、口座を開設し、現地の口座で年金を受け取るように変更することもできます。

年金の振込手数料は原則かかりません。海外の口座への振込であれば、振込時に現地の通貨に換算されての振込になります。

また、海外からも年金の請求手続きは可能できます。日本年金機構(年金事務所)に連絡をして、書類を取りよせ、添付書類と合わせて郵送します。

ただし、海外からの年金請求は何かとむずかしい点もあります。特に、加給年金対象となる配偶者や子どものいる人は注意しておきましょう。

日本では配偶者や子どもといっしょに暮らしているということは、住民票で簡単に証明できますが、世帯ごとの住民票がない国では簡単にいきません。

日本の年金制度は、当然のことながら日本の各種制度を背景に制度化されていますので、日本では簡単に証明できることも、海外では証明がむずかしいということもあります。


妻や子との生計が同一であることを証明するのに、現地の公証役場にいって、証明を書いてもらい、それを翻訳して提出するなどと、思わぬ手間がかかることもあります。

定年後の海外暮らしを検討している人は、年金の手続きを済ませてから出ることをおすすめします。

年金を受給中の人が海外暮らしをするときの手続き
1、市区町村役場で転出の手続きをします。
2、次に最寄もよりの年金事務所へ訪問行きし、住所変更の手続きをします。
*運転免許証などの身分証明書、年金証書、認印を持参してください。転出先の住所をメモして持っていくと便利です。今後も日本の銀行で受取り希望であれば、そのまま受け取れますることができます。海外の銀行での受取りを希望される場合は、変更することも可能です。

また、海外滞在中の年金の手続きを忘れないようにしましょう。毎年「現況届」を提出しなければなりません。国内に住んでいる人は、住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)の利用により、毎年の確認(現況届)を省略することができます。しかし、海外に転出すると、誕生月に「現況届」を提出しなければ年金はストップしてしまいますのでご注意ください。必要な書類は、毎年、誕生月までに転居先へ送られてきます。在留証明書などの証明書を添えて提出しましょう。

★海外で病気になったとき

海外暮らしでは病気になったときのことも心配です。
日本の企業でお勤めする人が加入する健康保険には、海外療養費という制度があります。

海外で受けた治療については、いったん全額を支払い、あとで請求し還付を受けるという制度です。海外赴任中に病気になった場合でも、健康保険に加入を続けているので、海外療養費の請求は可能できます。

ただし、海外での治療費は日本の医療費に比べて高いことが多く、支給されるのはあくまでの日本の医療費水準ですので、日本と同様に支払った治療費の7割が返還されるというものではありません。また、請求書は日本語に翻訳しなければなりませんので、翻訳ができるかどうか、翻訳を依頼できる人がいるかどうかという実務的なことも考えておかなけれなりません。

長期間海外で暮らすときは、現地での医療保険についても調べておきましょう。国によっては、医療費は無料というところ国もありますから。

国民健康保険にも海外療養費はありますが、長期滞在の場合、対象となるかどうかについては市区町村で確認をしてください。

いずれにしても、治療費については日本と異なりますので、多額な自己負担が発生する可能性もあります。民間の保険等なども、検討しておくことをおすすめします。

★一時帰国して治療を受ける場合

海外暮らしを始めたのち、一時帰国する機会も多いかと思います。
時々は日本に帰りたいと思いますし、また冠婚葬祭で帰国が必要ということもあるでしょう。日本で定期健診などを受け、病気の治療の必要があれば受けておきたいという人もいます。

日本の保険証がない場合、日本の病院で受診することはできるのでしょうか。

そのときは、帰国するたびに住民登録をし、国民健康保険証を発行してもらい、海外に出るときに海外転出届を出し、住民登録を削除するという方法により、帰国の間だけ、保険証を使用することがもできます。1か月の滞在なら、1か月分の国民健康保険料です。

このような方法を利用して、病気にかかったときは日本へ戻り治療を受けるということも可能です。国民健康保険料は前年の所得で計算されますので、。前年日本での所得がなければ、最低の保険料となります。

海外での生活といっても、住む国によって事情は異なります。あこがれの海外暮らしで快適な生活ができるように、事前によく調べておきましょう。